ファッションを纏って——Rueが導く自己表現の世界

ファッションは、その人のアイデンティティを形作る強力なツールだ。しかし、自分らしく自由にファッションを楽しむことに、ためらいを感じる人も少なくないのではないだろうか。

今回は、イギリス南西部に位置するウェールズ地方に住むインフルエンサーのRue(ルー)さんに取材をさせて頂いた。彼女は大胆にファッションを楽しみ、自身のファッションをSNSに発信することで、ファッションのインクルーシビティ、そして可能性を世間に訴えている。

そんな彼女に、どのようにして自身のスタイルを築き上げたのか、またファッションを通してどのようなメッセージを伝えたいのか、伺った。

写真:Rue (Rueさんのインスタグラムより @rubyrouxbijou

1. まずは自己紹介をお願いします。

こんにちは、Rueです!私は自閉症と*エーラス・ダンロス症候群、*体位性頻脈症候群という障がいがあり、今、北ウェールズの田舎に住んでいます。赤い髪がトレードマークで、ヴィンテージやサステナブルな服を使い、自分らしいファッションを楽しんでいます。

また、“障がい者がもっとファッション業界に受け入れられるように”という願いを込めて発信活動をしています。

*エーラス・ダンロス症候群(Ehlers Danlos Syndrome:EDS)=「関節が過度に柔軟である、皮膚が異常に伸びる、組織がもろいといった症状がみられる、まれな遺伝性結合組織疾患群です。 この症候群は、結合組織の生産を制御する複数の遺伝子の1つに異常があるために発生します。 典型的な症状としては、柔軟な関節、猫背、扁平足、伸びる皮膚などがあります。」(引用元:MSDマニュアル家庭版)
*体位性頻脈症候群(Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome: POTS)=「起立時の立ち眩み症状と、起立時の著明な頻脈を特徴とした、若年女性に好発する症候群です。」(引用元:東京都立神経病院 HP)

2. ファッションとの出会いや、どのように今のスタイルが確立されたのか教えてください。

私がファッションにハマったのは5歳の時だったと思います。当時大人気だった映画『赤い靴』が大好きで、真っ赤なエナメルの靴を寝るときも履いていたのを今でもよく覚えています(笑)。幼い頃はいつもクローゼットから花嫁のドレスを引っ張り出して、カーテンを頭に巻いて遊んだりするような子供でした。

10代ではヴィンテージファッションに惹かれ、夢中になりました。90年代半ばにテレビで初めてヴィヴィアン・ウエストウッドのコレクションを見たとき、そのロマンティックなスタイルに一目惚れしました。それ以来、袖やコルセット、フリル、チュールといったヴィクトリアン調のスタイルが好きで、今もそしてこれからもずっとそのスタイルが好きな気持ちは続くと思います。

ただ、40代で自閉症と診断されるまでは、ずっと周りに合わせようとしていて、他の人と同じような服を選んでいたと思います。でも、診断されてからは「これが本当の私だ」と思えるようになり、好きなものを自由に着れるようになりました。

3. お気に入りのアイテムや、特別な思い出のある服について教えてください。

写真:電動車椅子で初めてハイキングをした時(Rueさんのインスタグラムより @rubyrouxbijou

私の永遠の宝物とも言えるのは、テキサスで買った1800年代のカリコドレス。それに1920年代の「1時間ドレス」も特別です。こんなに美しいものが100年以上も前に手作りされて、今も着られるって本当にすごいですよね。

また、ファッションに関する思い出として特に忘れられないのは、オールテレインの電動車椅子を手にした時のことです。家族と一緒に丘をハイキングしたんです。その時、青い*セルキーのドレスを着ていて、広がる青空の下で、自分らしいスタイルを楽しめた瞬間が本当に素晴らしかったです。都市のアクセシビリティすらまだまだなのに、自然の中なんてさらに難しく、私のように障がいのある方は自然を楽しむ機会すら得られない現実があると思います。でも電動車椅子を手にしてから自由に楽しめることが増えました。

*セルキー=「スコットランド、特にオークニー諸島やシェトランド諸島の民間伝承に語られる、あざらしから人間の姿に変身する神話上の種族」(引用元:Wikipedia)

4. 自分らしいファッションを楽しみたい人に、何かアドバイスはありますか?

あまり考えすぎず、ただ自分が好きなものを着てください。ファッションは楽しむためのもので、自分が好きなスタイルを選ぶことが一番大事だと私は思います。

5. 最後に、日本の読者にメッセージをお願いします。

ファッションの世界にもっと多様な人を取り入れてほしいです。人口の20%は障がい者なんです。でも、私たち障がい者は忘れられがちだと私は感じています。私たちもファッションを楽しみたい。

ファッションは誰のものでもなく、みんなのもの。誰もが楽しめるファッションを作っていくことが大切だと思います。

Rueさんのインタビューを通して感じたのは、ファッションは単なる“服装を選択する”という行為を超えて、“個性を表現するための強力な手段“であるということ。そして、その力は誰にでも開かれているべきだという彼女の強い信念。

「ファッションは誰もが自由に楽しみ、自分らしさを発揮できるもの」

Rueさんが発信し続けるこのメッセージは、私たちに多様性の尊重と、よりインクルーシブな未来を考えるきっかけを与えてくれるのではないだろうか。

Talent Rue
Interview/Text/Design Marino Asahi
Superviser Rie Usui

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